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2025年05月08日
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2.同じ枝であなたに鳴いておりました時鳥ですよ と
2014年09月26日
帥の宮はまだ、家の外近いところにおいでになったので
この男の子が物陰のほうでなにか言いたげに居るのを見つけられ、
「どうだった?」 とおっしゃったので、
彼が歌の文(ふみ)を差し出すと、ご覧になり
同じ枝に鳴きつゝをりし時鳥(ほととぎす)声はかはらぬものを知らずや
同じ枝に鳴いておりました時鳥です、声も気持ちも亡き兄と変わりませんのをご存じか。
とお書きになり、少年に持たせて、
「このことを、人に言ってはいけないよ。軽い男のように人に思われてしまうからね」
とおっしゃって、中に入ってしまわれたそうです。
この文を少年舎人が持ってきたので、
まあ と思いはしたのですが
その都度お返事差し上げるのもと思い、とりあえずお返事はいたしませんでした。
すると続いてこんどは
うち出ででもありにしものを中々に苦しきまでもなげくけふかな
気持ちを打ち明けなければよかったものを かえって苦しいほどに思う今日です。
と歌を寄越される。
わたしはもともと思慮浅い人間ですから、たったひとりさみしく過ごす日々を空っぽのように
感じていたところで、
それで、この御歌はそのままやりすごすことができず、お返しを差し上げる。
今日の間(ま)の心にかへて思ひやれながめつゝのみ過ぐす心を
では今日のあなたさまのお気持ちのかわりに わたくしの今日の気持ちをお思いくださいませ
ぼんやりと物思いをしておりますわたくしの心を。
このようなふうにして、しばしばお歌をくださる。
わたくしもときどきお返事差し上げる。
それでわたくしの無聊(ぶりょう)も、すこしは慰められるような心地がして過ごしておりました。
するとまた文(ふみ)が参りまして、
詞書(ことばがき、歌の前置きにつける文章)などもすこしこまごまと書いてくださっており、
語らはば慰むこともありやせんいふかいなくは思はざらなん
ご一緒にお話しすることはできればお気がまぎれることもあるでしょう
わたくしがあなたのお気持ちを慰めることができないとは お思いにはならないでしょう?
とお歌いになり、「いろいろとお話申し上げたい。夕方にお伺いたしましょうか」
というお手紙なので
慰めと聞けばかたらまほしけれど身のうきことぞいふかひもなき
『生ひたる葦(あし)』にて、かひなくや
慰められるかもしれないとおっしゃってくださるのでしたら
お話してみたいとも思いますが
でもわたくしの気持ちなどはお話してもしかたのないことばかりです。
「何事もいはれざりけり身のうきは生ひたる葦のねのみ泣かれて(古今六帖より)」
何も申し上げることもできません、このとらえどころもない身の悲しみに
ただ声に出して泣くばかりですから というあの歌のように。
とお返事申し上げる。
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