[PR]
2025年05月08日
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
1.同じお声か 伺いたいものです。
2014年04月20日
長保五年
ほんとうに夢より儚かった亡き弾正の宮(だんじょうのみや)さまとの日々を
ただただ想いながら日々を過ごすうち
四月十日(旧暦)も過ぎ、初夏の季節ゆえ木の陰が日々に濃くなってきて
ふだん人が見るようなところではないだろうけれど築地の上の草も青く茂り、
それをぼんやりと見るにつけても
弾正の宮さまを失った季節がめぐってきたなあと
また弾正の宮さまのことを考えているばかりでした。
そんなとき、そばの透垣の下に人の気配がいたしました。
誰かと思えば、故宮さまにお仕えしていた小舎人(ことねり)の男の子です。
故宮さまのことなどいろいろろ考えているときに来たものですから、
「ずいぶん久しくおいでになりませんでしたのね。
遠ざかっていく時を名残りおしく思いますね」
などと話しかけましたら、
少年舎人は
「これといって用事もございませんのに、たびたびお伺い申しますのもどうかとご遠慮申し上げ
まして。山寺に行ったりしておりました。
でも、なんだか寂しくてどうしようかと思いまして、
ご兄弟で似ておられますゆえ」帥の宮(そちのみや)さまのところにお伺いしてみたのです。」 と言いました。
「まあ、よろしかったこと、
でも、帥の宮さまは派手で華やかでいらっしゃって、近寄りがたくていらっしゃるとお伺いし
ますし、
お兄様のようにはお親しくできなかったのではないですか」 と申しますと、
「わたくしもそう伺っておりましたが、とても親しげにしてくださって、
『よく和泉式部のところに伺うの?』とおっしゃいますので、
『参ります』と申し上げましたら
『これを持ってお伺いして、いかがご覧になるかと差し上げておくれ』
とおっしゃいまして…」
と橘の花の枝を取り出しました。
「昔の人の」と。
(五月たつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする(古今集・詠み人知らず))
橘の花の香りが漂う時期になると、
その花を香として着物に焚きしめていた以前の恋人を想い出す)と歌われておりますが
いかが、と。
そして
「帥の宮さまにお返事をもって戻りますけれども
どう申し上げましょう」 と言うので、
言葉でお返事申しあげるのもなんだか気がすすまず、
また、亡き宮との想いをいま簡単に言葉にしてどう思われるだろうかとも思い、
では歌ででも、と
薫る香によそふるよりは時鳥(ほととぎす)聞かばや同じ声やしたると
薫る橘の香りになぞらえて故宮のことを語りますより、
同じ親御さまのご兄弟、同じお声かどうかお声をうかがいたいものです
と申し上げました。
PR
Comment